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西上州 湯の沢渓谷 行者返しの滝(脳軟化症を自負する男)

「 行者返しの滝(脳軟化症を自負する男) 」

2008/2/11
メンバー: 村田よ、児玉、村田ま

前回の立岩3ルンゼからの続きの話です。

アイスクライミングのおもしろい点は、登攀の成否が、技術以前に自然のコンディションに支配されるところ。
いつも登れるわけではない。毎年登れるわけではない。当たり前のことながら、大前提として凍らないと登れないわけです。
日本で行われているアイスクライミングの対象は、主に、ジェフ・ロウの言うところのウォーター・アイス。つまり、沢の滝(や滲みだし)が凍ったもの。雪などが氷化したアルパイン・アイスとは違い、余計にそんな傾向があります。

年によって普段あまり凍らないようなところが凍って、登れるようになったりする。
ただ基本的には、温暖化の影響なのか、昔は毎年凍っていたようなところも凍らなくなっているというのが実際のところですけど・・・。
その時どき、氷の状態によって登攀の難易度が大きく変わる、というのもおもしろい点ではないでしょうか。

2008/2/10(日)・・・大量の降雪後で偵察を決め込む

立岩3ルンゼの次の日、7:00に起きて外を見ると雪はやんでいた。
二人ともまったく起きる気配がないので、9:30ころまで寝ていたが、気付くと外は晴れていた。
軽く荷物を整理して出発。
狭岩を偵察後、妙義方面に移動するつもりであったが、行者返しの滝が途中にあることに気付き、せっかくだから見るだけ見てみようということになった。
下仁田からあまりにも近く、こんなところが凍っているわけがないと思っていたのだが・・・行ってみてビックリ。
完全氷結・・・F1、F2、F3ともつながっていて登れそうではないか。
よーく観察してみても、F2の落ち口は氷があるか怪しいものの、なんとか登れそうに見える。

それにしても驚いた。
車道からいきなり氷がそそり立っている。まさかアプローチゼロの場所にこんな氷があるとは・・・。

「岳人」の’99年11月号?にチラッと紹介されていて、それによると、’86年2月に初登されたが(安中山の会の滝田純作、竹田定雄)、その後、暖冬が続き、続登の話は聞いていない・・・とある。
前に自分が調べたところでは、少なくとも2006年2月に再登されている。
ちなみに、行者返しの滝には「脳軟化症を自負する男」というルート名がつけられています。

ひょっとしてものすごいチャンスではあるまいか・・・。
3ルンゼを登ったあと、連休の残りはもう厳しいところはいいかな、と思っていたのだけれど、この氷を見たら引き寄せられた。
急遽予定を変更し、明日はここを登ることに決定!
滝から少し行った右側に駐車スペースがあり、今日のうちに積もった雪を整地しておいた。

そうと決まれば妙義の偵察はキャンセル。
荒船の湯で装備を乾かしたり、バイルとアイゼンを研いだりしてのんびり過ごした。
この日も下仁田の道の駅で車中泊。贅沢な一日であった。

2008/2/11(月)・・・行者返しの滝

6:30に起床し、行者返しの滝へ移動。昨日整地した駐車スペースに車をとめ、登攀準備をして滝の下まで歩く。
F1取付まではフリーで行くが、堰堤の薄氷を越えるのがいやらしかった。
F1の取付まで足跡があったが、ツララはまったく破損しておらず、誰も登った様子はない。登れば、おそらく2006年以来の再登になろうか。

F1の左側はツララから水滴が激しく滴る。
一回目、8:00に取り付く。土曜の3ルンゼの疲れがまだ残っていて、登る前から肩が重かったりする。
台座の部分に左から取り付き、激しく水滴が滴る中を右にトラバースして氷柱の基部に出る。
近くで見ると、下で見るより厳しそう。

氷柱はカーテン状に三重くらいに垂れていて、接地してないツララをバイルで叩いて取り除くとハングになる。
氷は中空。一本一本の氷柱は細くてもろい。
あまりにも怖いので、短い間隔でプロテクションをとってじりじり登るが、特に足を決められるところがなく難儀する。
俗に言う西上州の硬い氷とはこのことか・・・粘りがなさ過ぎる。あまりの脆さにバイルもアイゼンも決まらないわ、辛うじて決まってもすぐ外れるわ・・・まったく信用できない。

かなり怖い思いをしながら格闘の末、ハングの上に左右のバイルが決まり、乗っ越しに入る。
中途半端だが、落ちたときのことを考えて、ここでいったんスクリューを決めようと思うが、どうにもうまくいかない。そうこうしているうちに腕がパンプしてきた。
こりゃいかん・・・。
最後のスクリューは足下3m・・・腹を決めて突っ込むことにした。
足をハングの上に掛けるため、もう少し上にバイルを打ち直す。
乗っ越したと思った。が、どうにも右のバイルが抜けそうで、もう一度打ち直す。
ところが、氷が脆くて割れてしまい、満足な打ち込みができない。何度か打ち直しているうちに左のバイルが抜けた・・・。
「あっ」と思う間もなく後ろ向きに墜落。スローモーションになるのは本当なんですね・・・。

半信半疑で設置したスクリューで止まった。
右肘を打ったらしい。他はどこも損傷なさそう。
右膝の上にバイルが刺さってカッパが切れたが、足には異常なし。

とりあえずいったん降りる。
果たしてこの肘で登れるだろうか・・・?
最初握力がなかったものの、休んでいるうちに握力だけは回復してきた。

児玉さんに追加でスクリューを借り、二回目、9:00に取り付く。
途中までトップロープ状態で登り、今度はハング乗っ越し前に念のためもう一本スクリューを入れて、無事ハングを越えた。

落ち口は氷が薄い。左の崩れそうな土の斜面に頼りなさそうな細い灌木があるが、果たして下のハングのビレイに耐えられるかどうか・・・それ以前に、プロテクションが取れないまま落ち口のスラブをトラバースして灌木まで行くのが怖い。
最も安全に、薄い氷を伝ってF2基部まで行って一安心。が、やはりここも頼りなさそうな細い氷柱しかなく、こんなものでは絶対にビレイなどできない。

ここは意を決して、F2の上まで通しで登るしかない。F2の上にはしっかりした立ち木がたくさん見える。
ロープの残りを確認すると、足りそう。が、残りのスクリューは三本しかない。果たしてたった三本でF2(約30m)を登りきれるのだろうか???

まず、登る前に一本設置。ランナウトして、中間の段まで上ってもう一本。
F2だけは氷の質が比較的よかったので助かった。
幸い傾斜もそれほどでなく、なんとか落ち口下まで三本で登れた。が、またここからが核心だった。
上部は氷がない・・・。
最初はベルグラでまだよかったが、その上は完全に氷がなく、濡れた岩のドライツーリング(涙)。
傾斜はあるが、幸いにもところどころにホールドやスタンスがある。
最後のほうはもうところどころでバイルを離し、手で岩を掴んで攀じ登った。「落ち着け」と自分に言い聞かせながら・・・。

右の土壁にバイルが刺さったときはホッとした。
木を掴み、土壁にバイルを決めて立ち木まで這い上がった。
しっかりした立ち木でビレイ。ここまでギリギリ50mいっぱい。

横にあるF3も登れそうだ。
下の二人はどうかと思ったが、曰く、ものすごく苦労したらしいが、まぁ順調に上がってきた。
水分とエネルギーを補給して、ビレイしてもらいながら小便をする。
目出帽とフリースを着用してからF3に取りかかった。

いったん下のテラスに降りて、一番安定してそうな左からF3に取り付く。
ビレイ点から見たときは問題ないかと思ったのだけれど、このピッチの難しさはその長さ(約50m)と氷の薄さにあった・・・。
氷の下を水が流れているのが見え、ところどころかさぶたのように剥がれそうになっている。一寸、氷に取り付いている自分もろとも全部剥れてしまうのではないかという恐怖にとりつかれる。おーこわ・・・。
バイルの打てる場所も限られ、思いっきり打つこともできない。
自然と氷の厚いところを選んで登るラインとなる。

テラスから数歩上がってスクリューを決め、そのまま直上して段を乗っ越そうとしたところで、またしても両手のバイルが同時に抜けてフォール。
いったいどうしたというのだ・・・今日はいやに簡単にバイルが抜ける。こんな感覚は初めてだ。
幸い、2~3mくらいでたいした距離ではなかったが、背中からテラスにグランドフォールした。
慣性で鞭打ちになったかな、とも思ったが、この時点では特に体に損傷はなく、呼吸を整えてすぐにクライミング再開。

氷の厚いところを追って、最初は左側を直上。その後、右にトラバース気味に上がって、滝の中央部を登った。
高度が上がるごとに氷が剥がれそうで、緊張感が増す。既に、というか登る前から体もだいぶ疲れている。

2/3ほど登ったところで、滝全体に横一線に亀裂が走っていた。
やばすぎる・・・崩壊するときはここから全部落ちるのだろうな・・・。
幸いにも氷に十分な厚さがあり、すぐさま崩壊するという感じではなかった。
亀裂の段差に立って越えることができた。
亀裂の上の安定した氷にバイルが決まって、段差に立てたときは心底ホッとした。既に疲れてバイルも満足に振れなくなっている。

ここからは傾斜が緩くなり、核心は越えたと思った。
が、またしてもここからが本当の核心であった・・・。
例によって氷がだんだん寂しくなってくる。最初のうちはまだベルグラに引っ掛けて体を上げることができたのだが、時間も既に13:00を過ぎたろうか、登る前には知る由もなかったが、F3のこのあたりの部分は日当たり抜群!バンバン日が当たって氷が融け、水が流れ出している。
そのうち、バイルを掛けた氷がごっそり剥がれてしまう事態となった。

薄い氷に導かれて滝の中央付近にいるが、その上を見上げても氷はまったくない。雪と濡れた落ち葉の下は逆層のスラブで、手がかりがまったくない。
落ち口までは残り5mくらいだが、逆層のスラブが続き、最後は1mくらいの段差になっている。
氷が薄くなることを予測して、最後にとれそうなところにスクリューを決めておいたが、既にそのスクリューも10mくらい下で、傾斜の変わり目に設置したので今いる場所からは見えない。
しかも、氷が薄いためスクリューは首下まで入っておらず、とてもここからの墜落に耐えられそうにない。
その下も、運が悪いと氷ごと全て剥がれてしまうかもしれない。
道路まで160m切れ落ちた高度感も相当なものだ。

絶体絶命!絶対に墜落できない。
この状況で、ここから逆層のスラブを上に詰める選択肢はありえない。
左にしっかりした木があり、ここにトラバースすることに決めた。が、これが相当困難に思えた・・・。
スラブのちょっとした突起に両足のアイゼンの前爪を乗せ、バイルで雪と濡れた落ち葉の下をまさぐるが、まったくバイルが引っかからない(涙)。
そうこうしているうちに、ふくらはぎが攣りそうになってくる(涙)。
もはやバイルの刃先などどうでもよく、命あってのものだよねとあちこち叩きまくる。
すると、ようやくバイルがほんのちょっとした引っ掛かりを捕らえる。
体重をあずけることはとてもできないが、バランスの保持くらいはできそうなのでトラバースをはじめる。
わずか2~3mのトラバースだが、生きた心地がしなかった。

立ち木近くの土壁にバイルが決まったときは、助かったと思った。
高度感がものすごく、慎重に支点を作ってセルフビレイをとった。
何度も岩を叩いたバイルは、ピックの先端が完全に潰れ、天寿をまっとうした。

セカンドの二人は、最後のドライツーリングだけは顔を引きつらせていたが、まぁ順調に上がってきた。
ビレイしながら見ていると、登ってくる二人の背後は道路まで160m切れ落ちていて、ものすごい高度感だ。落ちたら間違いなく死ぬ。
ここにこんな丈夫な木があってよかった・・・。

ここから先は、木でプロテクションをとりながら左から巻いて落ち口上に出られると思われるが、実質的な登攀はここで終了しているし、今支点をとっている木が願ってもない下降支点となるので、時間も考えてここから下降することにした。
下降は確保支点を使い、2ピッチでF1取り付きまで降りられた。
握力に不安があったので、初めてスリングでバックアップして下降した。こんなに緊張した懸垂下降もはじめてかも・・・。

この時間になると、F1などかなり融けてボロボロになっていた。
この状態ではもう登れない。今回は本当に希少なチャンスを活かせたのだと思う。
登りと違って、堰堤もクライムダウンできないので、左岸側からさらにもう1ピッチ懸垂して道路に降り立った。

3ルンゼに続くビッグクライムで、精も魂も完全に尽き果てた。
西上州の氷は硬いとよく聞くが、これまではあまり実感がなかった。
が、今回はこの硬い氷に完全にやられた感じ。とにかく硬くて脆い。
バイルがなかなか決まらないし、アイゼンがあそこまで見事に弾かれるなんてのも初めての経験だった。
つくづくアイスは氷の質と氷結状態次第であると思い知らされた。

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行者返しの滝全景・・・登攀終了後に駐車スペースから撮影

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脳軟化症を自負する男 F1

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核心部の氷柱・・・一度フォールしたあと再トライ(下部をトップロープ状態で登っているところ)

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F3の取り付き

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このピッチの難しさはその長さ(約50m)と氷の薄さにある

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高度が上がるごとに氷が剥がれそうで緊張感が増す 本当の核心は、さらに上の傾斜が緩んでからだったんだけど・・・

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F3の終了点から落ち口を見る・・・氷がまったくない恐ろしい状況、岩は逆層のスラブです

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ここからの高度感がものすごい・・・道路までスパッと一直線=160m

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氷がすごいことになっている・・・人が登っているのを見ているだけで恐ろしい

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下降後に見上げるF1、F2

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F1、F2、F3・・・技術的に難しいのはF1、精神的に厳しいのがF3
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